1999年4月2日(金)

さて、4月2日は聖金曜日(Karfreitag)で、イースター音楽祭の後半ツィクルスの初日。 午前11時半から、会員(後援者)向けの公開プローベ。 のんびりと会場の祝祭大劇場へと向かうことにする。 この日の晩に演奏するバッハのロ短調ミサの一部でも演奏するのかなと思い、音友社の小型スコアまで持っていったのだが、この公開プローベでは珍しいことに、入口に簡単な紙のプログラムが置いてあり、実際は次の曲が演奏されることがわかる。

Fördererprobe (2. April 11:30 Uhr)

Claudio Abbado
Berliner Philharmonisches Orchester

Solistin
Viviane Hagner

Prokofieff
Violinkonzert Nr.1 D-Dur
Opus 19
(プロコフィエフ:
ヴァイオリン協奏曲第1番)

この小さな紙のプログラムには、日本音楽財団がこの3月に購入したばかりのストラディヴァリウスと日本音楽財団の紹介が載っているので、ハーグナーが弾いた楽器がこの楽器ということなのか。 何はともあれ、1年ぶりにザルツブルクで聞くBPOの演奏ということで、期待に胸がふくらむが、どうも会場は、相変わらず空席が目立つ。 午前中から、ガツガツと音楽を聞かなくともという人が多いのだろうか。 なお、これまでの公開プローベでは、演奏前にマイクで指揮者が話や挨拶をするのが常だったが (例えば、95年はアバドが簡単な挨拶のあと、99年までの予定を語り、99年は「トリスタン」といった途端、会場から盛大な拍手が起こったりした)、 今回は、事務局長のような人が出てきて、今後の予定について話をしていた。 2002年が「パルジファル」という話や、7月にカラヤン追悼演奏会をするという話が主な内容だったと思う。 また、1月にこの若い女性ソリストとこの曲をベルリンで演奏して好評だったので、ザルツブルクでも紹介したいということで、演奏が始められた。

実はこの曲を聞くのは初めてだったので、あまりコメントはできないのだが、アバドが得意とするロシア物だけあって、30分足らずの短い時間とはいえ、なかなか聞き応えのある演奏だったように思う。 初めに全曲の最後のところを一度さらったあと、冒頭から最後まで通して演奏。 特に、曲の最後の方の不思議な音楽の感じの表現が、BPOの威力もあってか、なかなか見事だったと思う。 弦はコンマスが安永さんで、14, 12, 10, 8, 6 という編成。 木管楽器は2人ずつで、ブラウ、マイアー、フックス、シュヴァイゲルトがトップを担当。 ホルンが4人(マスクニィティがトップ)、トランペットが2人(クレッツァーがトップ)、 そしてチューバ(ヒュンペル)、ティンパニがゼーガースという布陣(他に打楽器2人)。 なお、協奏曲のあと、ヴァイオリンのソロによるアンコールがあったのだが、曲は不詳。 第1ヴァイオリンの後方にあらかじめ椅子が一つ余分に置いてあり、アバドもこの椅子に座ってこのアンコールを聞くという手際のよさ。 アバドが後押ししたい若手女性奏者という感じを受けた選曲と演奏だったといえる (今シーズンも12月に、ハーグナーとバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番を共演している)。

演奏終了後、楽屋出口では、ツアーの方々と思われる20〜30人の日本人が、コンマスだった安永さんを囲んで記念撮影などしたり、ホルンのクリアーも親日家なのか、この団体との写真撮影に気さくに応じたりしていた。 という方々から始まり、今年のイースター音楽祭、この後もたくさんの日本人のツアーの方々を見かけたので、おそらく、私を含めて日本人聴衆の数は、過去最高だったのではと思う。 私はというと、楽屋出口から出てきたゼーガースに、いろいろと情報収集(^_^)。 2000年の来日公演の情報(「トリスタン」は文化会館でやるとか)やら、イースターでの彼の出番はバッハとマーラーだけであるとか。 あと、楽団理事のリーゲルバウアーにNHKの定期演奏会のBS中継の件について質問したのもこの時。 NHK側が契約の延長を望まず、契約が打ち切りになったことをBPOとしては大変に残念がっているとのことだった。

さて、この日のメインは、夕方6時半からの、アバド指揮によるバッハのロ短調ミサである。

Chor- und Orchesterkonzert (2. April 18:30 Uhr)

BACH    Messe in h-Moll  BWV 232

Claudio Abbado
Berliner Philharmonisches Orchester
Schwedischer Rundfunkchor

Solisten
Véronique Gens, Sopran
Anne Sofie von Otter, Alt
Charles Workman, Tenor
Simon Keenlyside, Baß
Franz-Josef Selig, Baß

ロ短調ミサでの指揮棒を使わないアバドの指揮は(譜面台は使用していた)、バッハの大作に謙虚に奉仕するといった趣き。 個人的には、そのていねいな音楽作りに、好印象を受けた演奏だったといえる。 弦楽器はヴァイオリンがファーストもセカンドも各4人ずつ、ヴィオラが3人、チェロ2人、コントラバス1人という小編成(他に、バス・コンティヌオとして、チェロとコントラバスが1人ずつ参加)。 コンマスはブラッハー。 古楽器的な奏法も取り入れているのか、弦楽器の音色にヒンヤリとした感じを与えるところもあった。 木管ではフルートのブラウとオーボエ・ダモーレのシェレンベルガーが大健闘。 グロートをトップとする3本のトランペットもばっちり。 強く強調するというよりは、どちらかというと、全体に溶け込むといった感じ(ティンパニも同様)。 スウェーデン放送合唱団は、前列の女声が21名、後列の男声が19名で、相変わらず見事の一言。

アバドのていねいな指揮というのは、例えば、グロリアの中間部の有名な「クイ・トーリス」など、あっさりしたテンポで進むのかと予想していたのに、実にゆったりとしたテンポ。 いわゆる聞き所は、じっくり聞かせてくれていたように思う。 クレドの中間部(3曲)もゆっくりで、ここでは小型オルガンのふたも閉めたりと、芸もこまやか。 芸がこまやかというと、合唱が8声部に拡大するホザンナでは、ステレオ効果をねらってか、合唱が左右に分かれての歌唱。 この効果は実に絶大。残りの曲は全部この配置で歌ったのだが、どうせなら、最初からこういう配置でもよかったのに(^_^)という印象も。

独唱者では、アルトのオッターが、毅然と座っていただけの一昨年の「マタイ」とはうって変わって、ソリストでは一番右端(上手側)に座っていたせいもあるのか、椅子を斜めにして座り、合唱だけの曲の時は、合唱団の方をちらりと見て、その見事な声に、一緒に首を振ったり。 また、演奏後も合唱団に花束を投げたりと、なかなかの役者ぶり(^_^)。 もちろん、「アニュス・デイ」での彼女のソロもさすが。 そして、最後の「ドナ・ノービス・パーチェム」の本当に素晴らしい音楽と演奏。 曲が終わって、アバドが緊張を解くまでの約30秒間、もちろん拍手は皆無。 演奏者が楽器を体から離して、やっと一斉に盛大な拍手。 実に得がたい体験であった。

(1999年12月28日)

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